労務相談について

あらゆる産業分野で賃金・人事制度の見直しが行われ、また、労働条件の改善や労働時間の短縮が進められています。労働者の意識も大きく変化しています。反面さまざまな業務の効率化が問われています。
そこで必要となるのは戦略やアイデアです。社会保険労務士は人事・労務管理全般に関する専門コンサルタントのため、事業主および従業員のお役に立ちます。
労務相談の事例
雇用に関する相談
雇用に関する相談の中でも、解雇や雇止めに関する問題は特に重要です。労働契約法第16条では、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない解雇は、権利の濫用として無効である」と定められています。しかし、依然として法的リスクを考慮せずに解雇を行う経営者も見受けられる状況です。
トラブルの事例
得意先とトラブルを引き起こしたり、何度も同じようなミスを繰り返したりする従業員への対応は、管理職にとって頭を悩ませる問題です。指導を重ねても改善が見られない場合、解雇を検討せざるを得ない状況も出てくるでしょう。
しかし、解雇の有効性が認められない場合、従業員から解雇無効の主張がなされ、慰謝料や損害賠償の請求を受ける可能性があるのです。
解雇は、業務上の支障の程度、改善の見込み、他の懲戒処分の可能性などを総合的に勘案し、慎重に判断する必要があります。
会社側が注意するべきポイント
解雇に関しては、法的に高いハードルが設けられており、安易な実施は大きなリスクを伴います。
たとえば整理解雇に関しては、人員削減の必要性があったか、解雇回避の努力をしたかなどが重要な基準となっています。
たとえ経営状況が厳しい場合でも、解雇は慎重に検討すべき最終手段と言えるでしょう。
トラブルを未然に防ぐためには、日頃からの従業員とのコミュニケーションが重要です。経営状況について適切な情報共有を行い、問題が生じた場合には十分な話し合いを尽くすことが求められます。
また、解雇を検討する際には、関連法規の要件を満たしているか、手続きが適正であるかを入念に確認する必要があります。専門家の助言を得ながら、慎重に対応することが賢明です。
労働時間に関する相談
働き方改革関連法の施行により、長時間労働の是正や年次有給休暇の取得促進など、労働時間に関する規制が強化されました。この流れを受けて、企業の労働時間管理に対する意識は高まりつつあります。
しかし、その一方で、労働時間をめぐるトラブルも増加傾向です。特に、長時間労働に関する問題は、深刻な事態を招く恐れがあります。
トラブルの事例
長時間労働は、単に労働基準法違反の問題だけでなく、従業員の健康や生活に重大な影響を及ぼします。過重労働によるメンタルヘルスの悪化や、最悪の場合、過労死・過労自殺につながるリスクがあるのです。
また、長時間労働は、未払い残業代の発生や、36協定の不備など、様々なコンプライアンス上の問題を引き起こします。これらのトラブルは、企業の信用を大きく損なう恐れがあります。
会社側が注意するべきポイント
企業は、労働時間の適切な管理を最優先事項の一つとして認識しなければなりません。トラブルが発生してからでは遅く、会社の信用にも大きな影響を及ぼしかねません。労働時間管理の適正化は、企業の持続的な発展を支える上で欠かせない課題です。
適切な管理体制を構築するためには、労働時間の正確な把握、36協定の適切な運用、業務の効率化や人員配置の適正化、従業員の健康管理などに注意する必要があります。
賃金に関する相談
賃金は、従業員にとって働く上での最大の関心事です。生活の基盤となる賃金が適切に支払われないことは、深刻な問題に発展します。しかし、賃金をめぐるトラブルは後を絶ちません。
トラブルの事例
残業代の未払いは、代表的な問題の一つです。労働時間の管理が不適切であったり、固定残業代の設定が実態に合っていなかったりすることで、トラブルに発展するケースがあります。
また、賃金規定の不備や、賃金計算の誤りなども、深刻な事態を招く恐れがあります。賃金に関する問題は、従業員の生活に直結するだけに、慎重な対応が求められます。
会社側が注意するべきポイント
賃金に関するトラブルを未然に防ぐためには、残業代の取扱いや給与の支払い方法について、社内ルールを明確に定め、全従業員に周知徹底することが大切です。
特に、残業代の扱いについては、慎重な対応が求められます。一部の企業では、基本給に一定時間分の残業代を含めて支払う、いわゆる「みなし残業代」の仕組みを採用しているケースがあります。しかし、この方式は、労働時間の管理が不十分だと、トラブルに発展しやすい側面があります。
どうしてもみなし残業代制度を採用する場合は、基本給に含まれている残業時間数を明示的に定め、従業員に説明することが重要です。
ハラスメントに関する相談
ハラスメントは、職場環境を悪化させ、従業員の尊厳を傷つける重大な問題です。実際に労務相談の現場でも最も多く寄せられる相談事項となっています。
近年、ハラスメント防止への社会的関心が高まる中、各種法整備も進められてきました。2020年6月に施行された改正労働施策総合推進法では、大企業に加えて、2022年4月からは中小企業にもパワハラ防止措置が義務付けられました。
トラブルの事例
ハラスメントによって、従業員がうつ病を発症し、休職や退職に追い込まれるケースも少なくありません。またハラスメントの加害者は、自らの行為を認識していないケースも数多く見られます。このような事態が発生すると、従業員の生活を脅かすだけでなく、企業の生産性や業績にも甚大な損失をもたらします。
会社側が注意するべきポイント
企業には、ハラスメントのない健全な職場環境を維持する責任があります。トラブルを未然に防ぐためには、ハラスメントの定義と事例を明確化し、社内規定を整備することが重要です。加えて、管理職を含む全従業員を対象とした定期的な研修の実施や、相談窓口の設置など、実効性のある防止策を講じる必要があります。トップのリーダーシップのもと、組織全体でハラスメント防止に取り組み、従業員が安心して働ける環境を整備することが強く求められています。
労働条件に関する相談
労働条件の明示は、労使間のトラブル防止に欠かせない重要事項です。就業規則には、企業の基本的な労務管理ルールを規定し、労働条件通知書では、個々の従業員に適用される具体的な労働条件を明確にすることが求められます。
しかし、実際には、これらの書面における記載内容の不備や、運用面での齟齬が原因となり、トラブルに発展するケースが少なくありません。
トラブルの事例
例えば、労働条件通知書に明示された労働時間や休日と、実際の勤務実態が大きく異なっていたために、未払い残業代の請求を受けたという事例があります。また、就業規則の変更手続きを適切に行わずに、一方的に労働条件を引き下げたために、従業員から強い反発を受けたケースもあります。
会社側が注意するべきポイント
労働条件は、労使間の重要な契約内容であり、トラブル防止のためにも、適切な明示と変更手続きが不可欠です。
特に就業規則については、労働基準法等の関連法令に沿った内容で作成し、従業員に周知することが重要です。法令違反の内容では、トラブル発生時に企業側の責任が問われることになります。
また労働条件を変更する際は、原則として労働者の同意を得る必要があります。特に、労働者の不利益となる変更については、個別の同意なしには効力が認められません。
企業は定期的に労働条件通知書や就業規則の内容と、実際の運用実態に乖離がないかを確認し、必要に応じて適切な変更手続きを行うことが求められます。