解雇問題の基礎知識
使用者から労働者に対する
労働契約の
一方的解約のことを解雇と言います
つまり、使用者が雇用の期間を定めていなかった場合は、使用者はいつでも解雇を申し入れすることができるということになっています。
この場合、解雇予告を行うことで、解雇を行えるということになっています。その場合、1ヶ月分の解雇予告金を払うのですが、その解雇予告金を払えば、すぐに解雇できるというわけではありません。
解雇はそれまでの労働者の生活の糧を奪うことになるため、解雇ができるのは、きわめて限定的な場合とされています。
解雇に必要なのは「正当性」です
解雇には、正当性がなければならず、この正当性とは、「だれもが辞めさせられてももっともだという理由があって、なおかつ使用者側が今まで何度も注意してきたのに、労働者側が一向に改めず、だれが見ても解雇以外に方法がないと言える場合」とされています。
ここでは、解雇にあたっての方法、手順をご説明していきますので、ご参考にして頂ければと思います。
解雇の種類
解雇の種類は、普通解雇、懲戒解雇、整理解雇の3種類に分けられます。 この解雇は、解雇理由・内容によって変わってきます。
普通解雇
普通解雇とは、「労働契約を継続していくのに困難な事業があり、やむを得ず行う解雇であって、懲戒解雇・整理解雇に該当しないもの」とされています。普通解雇の場合に考えられる労働者側の理由は、以下の場合です。
- 職務遂行能力に問題があるとき
- 健康上の問題で契約通りに働くことができないとき
ただし、上記の事実があっても解雇が無効になる場合があります。それは客観的に合理的な理由がないときです。
解雇の手順
会社は解雇を行う場合に、30日前に解雇予告というものを行わなければなりません。
また、解雇予告をしないで即時解雇にする場合は、解雇予告手当というものを支払わなければならなくなっています。解雇予告手当とは、解雇の申し渡しと同時に支払うべきものとされており、予告期間の日数は1日分の平均賃金を支払えば、その日数分だけ短縮できます。
ただし、「解雇予告除外認定」を受ければ、即時解雇が可能になります。
即時解雇について
「解雇予告除外認定」を受ければ、即時解雇が可能になります。
解雇予告除外認定とは、労働者の責任がある場合と天災事変、その他、やむを得ない事由のために事業の継続が不可能になった場合に、所轄の労働基準監督署長の認定を受けることで即時解雇ができます。
また、解雇予告除外認定の効力は、即時解雇の意思表示をした日に遡って発生することになっていますので、労基署の決定を待たずに、即時解雇を行うことができます。
懲戒解雇について
懲戒処分の中で一番厳しい懲戒解雇
懲戒解雇は、即時解雇される厳しい懲戒処分です。
懲戒処分で定められていること
- 訓戒
- 始末書を提出させ将来を戒めること
- 減給
- 賃金を一定額差し引くこと
- 出勤停止
- 就労を禁止すること
- 降格
- 役職、等級を引き下げること
- 論旨解雇
- 退職願や辞表の提出を促して即時退職を求め、それに応じない場合には懲戒解雇すること
- 懲戒解雇
- 即時解雇される厳しい懲戒処分
※懲戒処分が軽いものから順に記載しています。
懲戒処分で、いきなり懲戒解雇を適応することはできません
この懲戒処分でいきなり懲戒解雇を適応することはできず、懲戒処分を段階的に積み重ねていく必要があります。この懲戒処分の積み重ねがダメ社員の退治につながります。
たとえば、前に訓戒をした社員に対しては、次に減給をするようにしましょう。ただし、懲戒処分を適応するためには、就業規則に懲戒に関する規定を定めておかなければなりません。また、懲戒解雇の場合、労働者にとっての非常に大きいものになります。会社によっては、退職金を不支給する会社もいますし、懲戒解雇された労働者にとってその後の就職活動においてもなかなか難しいのが現状です。ですので、懲戒解雇を行う場合は、解雇予告除外認定が必要になります。
雇用制限除外認定について
雇用制限除外認定は、やむを得ない事由がなければ認定されません。
雇用制限除外認定の事由として
認められないこと
- 事業経営上の見通しの誤りなど、事業主の危険負担に属すべき事由によって、資材の入手が困難だったり、金融難に陥った場合
- 事業主が経済法令違反のために強制収容され、または購入した諸機械、資材等を没収された場合
- 従来の取引事業場が休業状態となり、発注品がなく、そのために事業が金融難に陥った場合
- 税金の滞納処分を受けて、事業廃止に至った場合
整理解雇について
整理解雇とは、経営悪化により人員整理のために行う解雇です。ただし、整理解雇を行う場合には、その前にしなければならないことがあります。
整理解雇は経営悪化のために行う解雇とはいえ、あくまでも最終的な手段です。整理解雇を回避するための施策をとらなければなりません。
整理解雇を行うための4つの基準
- 会社の経営状態が著しく悪化しており、人員整理の必要がある。
- 会社が解雇を回避するために、相当な措置を講じた。
- 解雇対象者の選定基準が客観的・合理性的であって、その基準の適用に妥当性がある。
- 解雇にあたって労働組合(労働者本人)と十分に協議を行った。
これらをすべて満たして、はじめて整理解雇が可能になります。
それぞれの対応方法
無断欠勤者
解雇通知はじっくり見極めてから送りましょう!
ダメなパターン
3日間ほどの無断欠勤した社員は、社会の常識から考えて解雇しても良いと思われるかもしれません。
無断欠勤者への対処法
会社としては、無断欠勤者を野放しにしておくのは非常に心苦しいと思います。
通常の人であれば、無断欠勤が長くなればなるほど復職しづらくなっていくでしょう。ただ、図々しい社員になると何もなかったかのように出勤する人もいます。その場合は、懲戒処分にすることをお勧めします。
休職社員
復職した際の処理が重要!
ダメなパターン
休職とは、労働者が私傷病などにより労務不能になった際に、労働契約はそのままで、一定の期間、会社を休むことです。ただ、休職制度は、労基法で定められていません。休職制度は、退職を一定期間猶予して、労働者に職場に復帰するチャンスを与える制度だと言えます。
休職期間中の解雇
一度休職されれば、解雇を行うことはできません。これは、「休職」が「解雇猶予」と考えられているためです。
そのため、精神疾患になった社員が、直ちに解雇の対象になるわけではなく、休職に切り替えて1年または6ヶ月間従業員としての地位を保証しなければならず、休職期間が満了してなお休職事由が消滅しないときに初めて、従業員を解雇させることができます。
就業規則による対処法
まず自社に見合った制度を就業規則で定めることが必要です。それでは、どのような内容を就業規則に規定しておけばよいかということになると思いますが、以下の項目を入れることが望ましいです。
- 私傷病の場合は、必ず診断書を提出してもらうようにしましょう。また、産業医や会社指定の医師の意見を求めることができるというものも盛り込んでおきましょう。
- 国会議員等の公職に就任した場合も休職規定に盛り込んでおきましょう。
- 本人から休職願を提出させて、会社が認めた場合に休職をさせるという旨も盛り込みましょう。
また、就業規則の中で、休職の期間についても定めることができます。休職規定を考えた就業規則を作成される方はお気軽にご相談ください。
産休・育児休暇中の社員
育児休業の申請の有無を確認!
育児休業の申請
育児休業法では、育児休業は事業主に申し出ることによって取得できるとされており、その休業期間は、原則として、子どもが1歳になるまでの1年間のうち、労働者が申し出た休業終了までとなっています。
女性社員が休業する前に育児休業の申請をしていない場合には、育児休業法で認められている育児休業とは異なるため、復職させるかどうかは、会社の裁量ということなります。ですので、復職を認めないで、退職してもらうこともできます。
申請をしている場合の
対処法
育児休業法では、労働者が育児休業申し出をして、または育児休業をしたことを理由として、当該労働者を解雇することはできないと規定されています。したがって、女性社員が育児休業を事前に申請している場合は、復職を認めなければなりません。
業績悪化などで、復職を認めないとする場合には、以下の行動を取っていることが必要となります。
- 新規採用の中止
- 役員報酬のカット
- 給与の見直し
- 当該社員の配置転換・転勤・出向・転籍の検討
- 希望退職の募集といった解雇回避措置
横領した社員
証拠が大事であるため、証拠をいかに整えるかがポイントになります。
横領の特徴
判例では、商品や代金を盗んだり、横領した社員については、その金額の大きさにかかわらず、たいていは解雇の正当性を認めてくれます。
しかし、ここで問題になってくるのが、横領したという証拠をいかに整えておくかが重要になってきます。
解雇予告金
一般的に解雇を迫られた社員から解雇予告金の請求があった場合、会社は労働基準監督署で解雇予告除外認定を受けなければ、解雇予告金を支払わなければなりません。
ただ、事後に解雇予告の除外認定を受けたときには、解雇の効力は、即時解雇を通告したときに生じることとなります。
また、客観的な解雇予告除外事由が存在するのであれば、使用者は除外認定を受けていなくても、解雇予告金を支払わなくてよいとしています。
セクハラ社員
会社の処分を被害女性に納得してもらうことが重要です!
まずやること
現在、会社は職場でのセクハラについて、雇用管理を行う上で、配慮をしなければならず、就業規則などでセクハラを禁止する条項を設けたり、苦情受け付けの窓口の担当者を決めたりしなければならなくなりました。
また、セクハラが発生したときは、まず、セクハラを受けた社員と、セクハラをした社員、およびその他の目撃者から事情を聴取して、事実関係を正確に把握しなければなりません。
セクハラした社員への
対処法
セクハラの件だけで解雇することはできません。なぜなら、会社は教育指導する義務があるからです。
ただ、セクハラ被害を受けた社員とセクハラした社員が同じ部署などにいた場合は、配置転換する必要があります。
セクハラされた社員への
対処法
セクハラ被害を受けた社員が、会社の処分を納得しないと、会社に対して損害賠償の請求をしてくる可能性があります。
そのため、セクハラされた社員に納得してもらうことが必要になりますが、そのために、謝罪文を被害者に送るほか、加害者と被害者は今後接触しない旨、被害者が加害者を慰謝する旨、さらに会社と被害者、加害者と被害者それぞれに、この覚書で定めた以外には何らの債権債務がない旨、これらを規定した覚書を会社、加害者、被害者の3者で締結をするなどすることで、損害賠償を請求することを事前に防ぐこともできます。
能力のない社員
入社時の契約によって異なります!
解雇できないパターン
普通の採用試験で入社し、やがて昇格していった社員であれば、入社時に売上目標などが提示されていない場合、能力不足を理由などに解雇できません。
そもそも地位特定者として採用されているわけではないので、人事制度により降格や配置転換の措置をとり、雇用を保証する必要があります。
解雇できるパターン
ヘッドハンティングによって営業部長などの役職者として雇い入れた地位特定者の場合、その役職に応じた能力を見込まれて中途採用されています。地位特定者は労働契約で地位が特定されており、その職務を遂行する具体的能力と適格性があることが、労働契約の内容になります。
地位特定者として採用する場合、実務的にはその契約内容を明確にするために、労働契約書にその詳細を明示しておきます。さらに、会社が求める能力や職務内容、達成目標なども明示しておくとよいでしょう。
契約社員
雇い止めには正当な理由が必要!
雇い止めできない
パターン
契約書に「更新拒絶の通知がないときには、契約は更新する」旨が規定されている場合、両当事者からも更新拒絶の通知がなかったら、自然に更新されます。
契約社員をやめさせるためには、契約期間満了時に雇い止めで退職させるべきです。そのため、契約社員を辞めさせたいと思う場合には、いつが雇用期間の満了時なのかをしっかりとチェックしておくようにします。
注意点
契約社員の場合には、会社側の更新手続きが形式的であり、また労働者の側は次回も更新されるという合理的期待を持って働いています。このような場合には、雇用期間満了で退職させられることになると、労働者の生活の糧が安易に奪われることにもなりかねません。
雇用期間の定めのある契約であったとしても、実質的には期限の定めない契約といえる場合や雇用継続の合理的期待が認められる場合には、雇い止めに解雇と同様の正当理由が必要とされています。
雇い止めで
退職させる方法
雇用契約書「原則として更新はしない。但し、更新する場合は、会社側が更新の申し入れをする」と規定するようにしましょう。
有給消化社員
有休を
認めないのは違法
有休は労働者の権利であり、認めないのは違法です。
会社によっては、退職前に未消化の有給をすべて消化するのが慣例というところもあると思います。
取得日を変更させる
事業の正常な運営を妨げる場合には、会社は有休の取得日を変更することができます。
ただ、退職日までの期間をすべて有休の取得にあてるというような場合、変更できる日自体がありません。事前にルールを決めておくことで、その有休を防ぐことが可能になります。
就業規則でルール決め
一般的に有休の規定について、「1~2週間前までに申請をする」というルールを定めている会社が多くあります。
それにプラスして、「連続○日以上の有休を取得する場合は、1~2週間前でなく、1ヶ月~3ヶ月前に申請をする」というルールです。